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| 7013 | ペンキ屋の仕事ぶり | 王老五 | 07.01.31 | ||||
| はじめは何ら筆者は注目していなかった。我が事務所がある建物の便所の作業である。 ひとつの階にたった二つの単位しかない小さな建物ゆゑ、便所はそれぞれ糞壺がひとつの、男女 専用それぞれの便所がある。つまり大小便兼用の糞壺がひとつの男子、女子便所の小屋にそれぞれ ひとつずつ鎮座している規模の手洗い所である。 筆者の事務所は、男性がたったひとりだから、男子便所内の変化は筆者しかわからない。たまに 女子便所が混んでいる時は、当社の女性スタッフらは男子便所を利用しているようである。 先日の日曜午後、出社した折、便所に入り所用を足した。ふと、朝顔の脇に以下のような目新しい ものがみえた。 写真上部に映っている、横に走っている白パイプに白ペンキの上乗りした作業形跡である。 周囲を見回すと、写真に映した時はもうその貼り紙は取り下げてあったが、「パイプはペンキ塗り 立て・注意」の内容であった。 床をみれば一目瞭然であった。写真に映っているように、作業員は脇にある便所紙をちょいと拝借 し、それをペンキが落ちるであろうあたりに、床を汚さぬよう置いたものであった。 実際、その光景を撮影しようと思っていたが、つい時宜を失してしまった。写真に映っている白い ペンキが落ちたであろう痕跡は、本物のそれでなく、電脳上、JPEGの拡張子の中で、筆者が付け 足したものである。が、実際は、これとよく似た有様であった。 実際は、便所紙の長さはもっと長かったように記憶している。が、この写真のように、単なる巻き 便所紙の幅一列だけであったのは間違いない。 つまり、後から類推すれば、作業前、 というふうに、左に微かに垣間見える糞壺の脇にある巻き便所紙をさっと引きちぎり、かく床汚れ 防止策を施したものであろう。 さて、ある懸案の案件で、当ビルの管理事務所に出向いた際、応対に出た係員から、その案件外に、 その日、便所のパイプにペンキ上塗りを施した、だから、注意を、という留意があった。 通常、ペンキ屋は古新聞紙を床汚れ防止に使う。筆者とて、32年前、海外放浪の旅に出た際、 しばらく滞在せるロンドン郊外の下宿屋で、その下宿の主人の細君が、同じ下宿人のひとり、若いアン ちゃんにペンキ塗りの作業を委託しているが、怠け者でなかなか作業が進行していない、という愚痴を 聞き、筆者がその作業を申し出れば、週15ポンドを支払うから、継続してやって欲しいと依頼された 。だから、筆者はセミプロのペンキ屋ともいえるか。結局、全部屋の室内のペンキを上乗りすることに なった。怠け者の倫敦の若者と違い、そこは、日本男児。見事な仕事を示してやれば、主人夫婦は 大喜びであった。だから、よく夫婦が午後のお茶の時は、筆者が呼ばれ、何かの世間話に花が咲いた。 筆者のヴィザのことまで心配してくれ、その延長にどこに行くか、などなど、親切にしてくれた。 そのおばさんは、本来は英国人でなく、ベルギー人であった。だから英語に訛りがあった。フランス 語はやはり見事なものであった。亭主は生粋の英国人。筆者にはゆっくりと分かり易くしゃべるような 配慮していてくれた。 そのヴィザの手続きで、おばさんが筆者の旅券を見せてほしい、といってきたので見せてあげた。 おばさん、筆者の顔写真をみて、「あなた、スーツを着てタイを締めている!」とびっくり。脇の 亭主に確認した。亭主の方はそこはかつてBOACと称していた航空会社に勤務しており、社会性は 当然あるので、にんまりと頷いていた。ただ、おばさんだけがまだ納得できない様子だった。 おばさんは、「じゃ、日本の首相はタイを締め、スーツを着ているの?」とさらなる質問をして きたものだ。 あ、とんだ脱線してしまった。 ペンキ塗りの話題から、つい32年前のことを思い出してしまった。 翌日、同じ便所を訪れた際、もはやその「巻き便所紙の床汚れ防止」が取り下げられてあった。 が、せっかくの防止策は有効でなかったようだ。以下のように、しっかりと白いペンキが床を彩って いたのであった。 この写真でも、後で筆者が床に落ちている白ペンキの形跡を加えたものだ。撮影時期を失してしまっ たからである。が、実際に目撃した現場は、この写真の様子に極めて近い。 たった一枚の巻き便所紙だったから、白ペンキはその薄い紙を突き抜け、床にまで達したのだろう。 さあ、どないするのだ? と思い、よし、このザマを撮影してやろう、と思っていて半日ほど、そのままの状態にしておくと、 筆者の撮影に先制攻撃を打ったのか、建物の管理会社から作業員が派遣され、その作業員がせっせと ヘラみたいなもので、その床を汚したものを削っていた。遅かった。 それが終わると、以下の通りだった。 きれいに落ちた白ペンキを剥がした。が、ようくみれば、写真ではわからぬが、剥がした箇所が、 異常に周囲より白くなっており、じっとみればどの地点に白ペンキが落ちていたかがわかる。 さて、、 ペンキ塗りのセミプロの目からいうと、ひとつの無駄な工程を結局この作業では要してしまったこと になる。 つまり、ちょっとでも楽をしようと、安易な「床汚れ防止策」をしたことから、その不必要な工程が 生まれてしまった。「楽をしよう」としたことが、却って「作業工程を増やした」ことになる。 ちゃんと、巻き便所紙より厚く強度を有している古新聞紙を使って「床汚れ防止」を行っておれば、 最後の工程が不要になったはずである。 ことほどさやうに、これに似た「愚かな近道」をしたことが、結局「回り道」になることがたびたび あるのである。ちょっとでも、楽をしよう、なまくらをしよう、というのが当地の人達に血となって 脈打っている性向である。 ■ | |||||||
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